2020年5月15日付

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「自費で学校に通う子どもに少しでも仕送りをしたいのに、この手が利かない」。全身の各所が硬化する難病を患うMさんは、硬直した指をさすりながら悔し涙をこぼす▼女手一つで育てた子どもたちは就職、進学とそれぞれの道へ巣立った。Mさんは病気が進み、箸も持てない体ながら、子どもに迷惑を掛けまいと独り暮らしを続けている。だが、動かぬ手で就ける職は少なく、生活は日ごと困窮する▼糊口をしのぐため東北の工場へ出稼ぎに行ったが、手が遅いと叱られ続けて心が折れた。今度は都内に住み込みの仕事を見つけて上京。しかし一つの風呂、トイレを男女で共用する寮生活はつらく、数カ月で辞した。「破滅か自己破産かに追い詰められている」との言葉を最後に、彼女からの声は途絶えた▼出会った難病患者の多くが就労を切望していた。しかし通院や突然の入院などで安定して働くことが難しく、雇用側の負担も大きい。事情をのみ込んだ働き口はとても少なく、経済情勢によって退職を余儀なくされる。よしんば会社の理解が深くても、度重なる休暇取得が心苦しくて自ら辞する人もいる▼「生活の貧しさで病状を悪化させる悪循環」と医療関係者は案じる。コロナ禍の下、彼女たちは今、どうしているだろうか。置かれる環境は今後一層悪くなるだろう。国民皆が大変、という今の局面で、少数のか弱い声はますます届きにくい。

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