2020年5月29日付

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電話に不慣れな頃の、声音を頼りに会話した緊張感は忘れ難い。顔が見えないからこそ対面以上の配慮が必要と強く教えられた。受話器を握り締めた手は汗でびっしょりだった▼いつしか自分を名乗らない電話が増えたと感じる。マスコミへの情報の中には提供者の社会的地位や生活を危うくするものも確かにある。だがそうした場合も提供者と記者の間は匿名でなく、むしろ深い理解関係を結ぶものだ。比して近頃の世間での匿名の使われ方にはこうした信頼感が見えない▼女子プロレスラーの木村花さんがSNS上で中傷を受けた後に自殺を図ったとされ、匿名ゆえの非道な行為が問題になっている。故意の言葉の暴力は許されるものではない。が、悪感情むき出しで他者にぶつける人の心にも目を向ける必要があるのではないか▼暗い感情は誰の内にもある。赤の他人の行いをわが事のように憤り、悲しむ感受性はある種の純粋ともみえる。昨今の社会にそうした感情を誇張し、あおる風潮はなかろうか。情報を発信する者も、見えぬ受け手の心情を思慮する力が要ると自戒する▼言葉の強弱はあれど「批判」と思えば痛みも恨みも募り、「指摘」と受ければ糧になる。自粛生活が開けると、密な人間関係に息苦しさを感じるかもしれない。でも、想像力の働かせ方一つで事態も人間関係も全く違った展開になる。そう心に置けば呼吸が少し楽になる。

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