2020年6月9日付

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諏訪湖周の10~30代は保育園児や小中学生の頃に諏訪湖畔で出会っているのではないか。「羊のおじさん」と呼ばれたTさんである。土手草を求めて数頭の羊を連れて歩き、横断歩道では大声で羊を誘導していた▼Tさんと羊が諏訪湖畔を進む牧歌的な光景は、諏訪市石彫公園のシンボル的な作品である下諏訪町出身の彫刻家大和作内(1894~1990年)の羊群と牧童が動き出したようでもあった。人間と羊の仲むつまじい姿を偶然見つけた観光客は幸運を語り、散歩途中の園児は大喜びだった▼諏訪市文学の道公園でTさんとよく話をした。日焼けした肌に白いランニングシャツ、頭にタオルを巻いていた。世捨て人のような雰囲気を漂わせながらも、気さくに羊の説明をしてくれた。壊れた眼鏡の奥の瞳は、一種の清潔さを感じさせた▼Tさんは2008年に76歳で亡くなった。「羊のおじさんじゃない。お父さんなんだ」。羊と暮らす理由は聞かずじまいだったが、羊たちに注ぐ愛情に偽りはなかった▼今年度の小学校生活が6月、2カ月遅れで始まった。黄色い帽子の新1年生が友達と手をつないで楽しそうに歩いている。旗振りの保護者や先生、地域の人に見守られ、安全な歩き方を勉強中だ。運転者には横断歩道手前の減速と歩行者優先の意識が求められる。コロナ禍で失ったものの回復を焦る日々だが、子どもたちの命はしっかり守りたい。

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