2020年7月11日付

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筆先の置き場を定めてひと息で大胆に書き上げる。御朱印帳に向かう住職の手元に目を見張った。力強く端正な文字には寺と書き手の個性がにじむ。筆跡をなぞれば長年の修練の重みも伝わってくる▼本来は写経を納めた証しを浄財だけでいただくのは恐縮だが、順番待ちの長い列なすブームに便乗している。時に御朱印を集めるために参拝するという本末転倒もご寛恕願いたい。わずかはがき大の和紙の中に広がる世界はそれほど深い魅力がある▼八ケ岳南麓で今、この行の人気に乗った巧みな企画が太古の精神文化に光を当てている。縄文時代の出土品を収蔵する山梨から長野にかけての博物館、考古館を訪ね、土偶をモチーフにした御朱印を集める「三十三番土偶札所巡り」だ▼土偶の姿形は一体ごと全く違い、精巧で独創的な造形には作り手の強烈な信念と意図が感じられる。各施設、その地域にとっての看板―いわば御本尊。収集欲も刺激される。このユニークな発想がパロディーにならないのは、当時の人が土偶に寄せた信仰の深さゆえだろう▼周囲の山が噴火して大地が揺れる。土砂崩落も日常ごとで、死は今より生活の間近に在ったろう。その中で人びとはどんな思いを込めて土をこね、彫塑したのか。新型ウイルスに頻発する地震、連日の豪雨。祈る思いで空を仰ぎながら、あまたの厳しい試練を生き抜いてきた人間のたくましさを思う。

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