協力隊はいま2 国内での活動(下)

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南信地方の観光の課題について駒ケ根観光協会の職員(左)から話を聞く渡邉さん(中)と佐野さん

3月のある日。青年海外協力隊員の候補生・佐野枝里菜さん(29)の元に、国際協力機構(JICA)から一通のメールが届いた。正式に協力隊員になるために翌月から励む予定だった訓練が延期される旨が記されていた。「やっぱりな…」。そこに驚きはなかった。

教育支援、インフラ整備、森林保全…。多種多様な活動を通じ、半世紀以上にわたって途上国の発展に寄与してきた協力隊。志願者は選考試験に合格すると、駒ケ根市と福島県二本松市にある協力隊訓練所で、海外派遣に向けた合宿形式の訓練に臨む。隊員候補生として外国語や異文化理解などの学習に取り組み、70日間の課程を修了して初めて協力隊員と認められるのだ。

だが訓練所に今、隊員候補生たちのにぎやかな声は響かない。新型コロナウイルスのまん延を受け、JICAは4月からの訓練を来年4月以降に延期した。訓練所での集団生活は感染リスクが高い上、多くの国が国境管理を強化する現状では、海外派遣が難しいからだ。延期の影響を受けた隊員候補生は、佐野さんを含む300人以上に上る。

佐野さんは愛知県知立市出身。テレビのドキュメンタリーや紀行番組の影響で、幼少期から途上国への関心が高かった。大学時代、アフリカ南部・ザンビアに滞在し、手洗いやせっけん作りの仕方を現地住民に教えるボランティアをした経験を持つ。

大学卒業後、途上国との関わりを求め、貿易業務に携わる商社で働き始めた。しかし、仕事の舞台は海外の現場ではなく、国内のオフィスが中心。「途上国とつながっているようで、つながっていない。このままこの仕事を続けていいのかな…」。もやもやした思いを抱えたまま、一日一日を過ごしていた。

転機は、佐野さんの悩みを聞いた友人から知らされた協力隊の募集説明会だった。足を運ぶと、久しくなかった「わくわくした」感情がこみ上げた。自分の進むべき道だと考え、選考試験に応募したのは昨年春。無事合格し、アフリカ西部・ベナンへの派遣が内定した。

6年近く在籍した会社を今年2月末に去り、訓練の準備に入った。延期の連絡を受け取ったのはその直後のことだ。「どうしよう、無職だ」

その後の半年間、先行きの不透明感に苦しんだ。それでも、ベナンの公用語であるフランス語を学んだり、オンラインセミナーでベナンの情報を集めたりして、モチベーションの維持に努めていた。

そんな中でJICAは今夏、希望する隊員候補生を対象に特別訓練を国内各地で実施することを決めた。地方が抱える課題に隊員候補生が向き合い、途上国での活動に必要な課題解決能力を育む狙いがある。現在、北海道から九州にかけての15地域で46人が参加している。

佐野さんも参加を申し出た。訓練地となったのは駒ケ根市。今月9日に到着し、アフリカ南部・ボツワナに派遣予定の渡邉博次さん(27)=静岡県富士市出身=と共に3カ月間の活動を始めた。今は地元の組織・団体と連携し、南信地方における観光や多文化共生の課題を探っている。

一方、未曽有のパンデミック(感染症の世界的大流行)は終息の兆しが見えない。米ジョンズ・ホプキンス大の集計によると、世界全体の新型コロナ感染者は22日までに累計で3130万人を超えた。感染拡大は188の国・地域に及ぶ。「いつまでこの状態が続くのか」。海外派遣の再開時期を見通せず、佐野さんと渡邉さんは不安を抱える。

ただ、2人はこうも言う。「多くの方々の支えのおかげで、駒ケ根に今いることができる。目の前の課題に一生懸命取り組み、協力隊活動の技術を培っていきたい」。隊員候補生たちは前を向く。任国の地に立つ日を信じて。

(第2部 おわり)

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