2020年10月17日付

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荷物を背負って旅をするバックパッカーだったころ、エジプトの首都カイロの下町にある日本人のたまり宿で、その男性に会った。水津英夫さん(享年85)。出会った当時71歳の水津さんは、中国を出発点にアジアや中東諸国を陸路で旅するバックパッカーだった▼自宅は大阪府堺市にあり、60歳で電気メーカーを退職し国内を自動車で旅した後、「相手の国も漢字だから会話は筆談でできるはず」と台湾、中国へ行く。何度も中国へ行って慣れたころ、目の前のパキスタン国境を越えてみた。そこで「言葉は問題じゃない。旅費も安いし楽しい」と気付いてしまう▼その後は縦横無尽に地球を歩き回り、世界60カ国以上を訪れた。旅費は年金。豪州では73歳の時、スカイダイビングに挑んだ。旅の途中で病気もあったが前進は続いた。水津さんはいつも朗らかで自然体。説教じみた話はせず、宿では若い人、特に女の人に人気で一緒に酒を飲みに行き幸せそうだった▼83歳を過ぎたころ、がんを宣告される直前に飯田市の私の自宅へ来ることになり、「大丈夫ですか」と尋ねると「私は住所さえ分かれば、世界中どこへでも行けますわ」と即答された。かっこ良かった▼水津さんは「年をとっても旅には行けるもんです。家にいるよりは面白い」と言った。十数年前には旅の目的地を天国に変えた。今も翁の笑顔が心に浮かぶ。旅には予期せぬ出会いがある。

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