2020年10月21日付

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なんて穏やかな生き物だろう。富士見の牧場でアルパカに触れた。南米の高原でインカの時代から飼育されているというラクダ科の動物。柔らかな毛は手触りよく、気性がおっとりしていてこちらの緊張もゆるゆる解ける▼生まれながら3本足の「チャッピー」の誕生祝いに県内外からファンが集まった。癒やしだけでなく、どんな境遇でも生きることを諦めない姿が多くの人を勇気づけている。牧場の知名度を一気に上げた立役者でもある▼アルパカを富士見に連れてきた小林亀太郎さん(96)は戦時中、海軍航空隊の予科練生で人間魚雷「回天」に乗るはずだった。”新しい兵器”と聞くほか委細は分からないが、お国のために命を捧げるのは当然のことだと信じていた▼敗戦に心が折れかけ、他部隊にいた兄との再会を頼みに帰郷するも、兄は任地で自決した。亀太郎さんは兄への敬念を胸に、満州から引き揚げの人たちとともに原野を懸命に拓き、酪農の一世を築いた。アルパカをこの地に迎えたのは、ともに汗して土を守ってきた町民への思いからだ▼優しくて飼育も容易、毛も高く売れるから、高齢で田畑の維持が大変になった農家の助けにきっとなる-と亀太郎さん。「八ケ岳を背にアルパカが土手の草をはむ風景は平和そのもの。そんな富士見をつくりたい。そのために私は生き残ったのだから」。アルパカの背にさまざまな人の希望が見える。

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