2020年10月28日付

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万葉歌にある。〈櫛も見じ屋中も掃かじ草枕 旅行く君を斎ふと思ひて〉。家族が旅に出ている間は、その人の櫛を見ることも家の中を掃くこともタブーであった。平安時代には生活の細部に”忌む行為”が規定されていたという▼政争が激化し、恨みつらみによって「もののけ」や怨霊が跋扈した平安の昔、王朝人は病気の原因を体のけがれ、鬼(霊魂)のせいだと考えた。怨霊を恐れ、不吉を避けるための「物忌み」を行ったと、文学博士の山口博さんが著書「王朝貴族物語」に書いている▼安倍晴明ら陰陽師が活躍した時代だ。物忌みとはある期間家にこもって外出を控え、日常的な行為を避けることだという。災いから身を守る陰陽道にまつわる風習や考え方が、新型コロナウイルス対策として自粛生活をする現代にも通じるところがあって興味深い▼コロナ禍のなか、テレビ放映されたアニメ「鬼滅の刃」にはまった。もはや説明不要のヒット作で、全国の映画館で公開された劇場版の観客動員もすごい。人を食らう鬼に正義の鉄ついが下されるのだが、その鬼の哀れな境遇にも同情してしまうから不思議である▼閑話休題-。感染防止を図るために、行動を規制したり、決まりごとをつくったりと、新しい生活様式を取り入れている人もいるだろう。千年前とは違って感染症の原因は鬼ではなく病原体だと分かっている。疑心暗鬼になる必要はない。

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