2020年10月30日付

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小ぶりで古びた木魚に穴が開いている。長野市立博物館で開催中の、念仏行者・徳本についての特別展に展示されている。念仏を唱えながら激しくたたいて打ち抜いてしまったのだという▼歴史上の著名人には伝説が付いて回りがちなので本物かどうか疑わしく思いながらも、信者の詰め掛けたお堂に声を振り絞った念仏が響き、熱気に包まれている様子が心に浮かぶ。カリスマ・ミュージシャンのライブのようなものだろうか▼実際、徳本上人は当時のスーパースターといっていい存在で、文化13(1816)年に信濃を半年かけて縦断した際には22万人が教えを受けたという。この数字は「南無阿弥陀仏」の6文字を記したお札が配られた記録から推定されている▼徳本上人の「南無阿弥陀仏」は一目で判別が付く独特の書体で、企業のロゴのような役割を果たしたことだろう。また、毎日決まった数の念仏を唱えたらチェックを入れて、すべて埋まると極楽への切符になるような、修業が三日坊主にならない工夫をしたお札もあったそう。「やり手」である▼徳本上人の「南無阿弥陀仏」を刻んだ石塔は全国に1500基ほどあるが、県内では493基と群を抜いて多い。ここまで信濃で人気を集めた理由は定かではないが、徳本上人が拠点としていた江戸では町民文化が花開いていた時代だ。新しい知見を吸収しようとした先人たちの熱意がうかがえる。

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