2020年10月31日付

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コロナ禍により密集することなく野外で楽しめる釣りに人気が集まっているという。長年ロッドを振る身として、魅惑と苦悩に満ちた世界の扉を開けようとする皆さんを歓迎したい▼釣りに夢中となるきっかけに「ビギナーズラック」(初心者の幸運)がある。釣り初期に大物の魚を釣り上げることだ。夢中で陸に上げた獲物を目の前にして心臓の鼓動の激しさに気付いた瞬間、そこに釣り師が誕生する。もう後には引けない▼だが初心者の幸運は一瞬で消える。なぜなら次の獲物と対峙する時、釣り師は獲物を手中に収めようと「釣る気」が満ちるからだ。その気は魚からすれば殺気だ。釣る気は力みに変わり、針に付けた餌が不自然に動くことで、魚に「危険」と見破られ、釣果にはつながらない▼仲間内では「卓越した1割の釣り人が9割の魚を釣る」と例える。魚の生態、現場の状況、釣り方、釣り具を熟知した人のみが1割に到達する。釣れない人は運を含めて何かが足りない。1割の釣り師入りをするには無釣果にめげず、現場に通って釣り続けることだ。できるようで難しい▼作家の開高健は随筆「脱獄囚の遊び」で「一匹でいい。一匹さえ釣れればいいのだ。そして最初の一匹に、大小にかかわらず、すべてがあるのだ」と書く。「0」という憂鬱や焦燥が一転、たったの「1」で喜色満面に変わり幸福をもたらす。そこに釣りの真髄がある。

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