2020年11月1日付

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8年ほど前に庭にまいたクヌギが成長し、今年初めてドングリを付けた。直径2センチほどの球形で、おわん型の殻斗の鱗片は反り返って縮れ毛のよう。5歳になる次男がさっそく回して遊んだ▼ドングリには豊作の「なり年」と不作の「ふなり年」があり、数年ごとに結実する数が増減すると聞いた。こんな説がある。豊作が続くと、ドングリを餌にする虫や動物も増えて、すっかり食べられてしまう。ふなり年があることで捕食者が減り、次のなり年はドングリの生存率がぐんと高まる▼今年の秋は県内各地で熊の出没がニュースになった。襲われてけがをした方もいる。ドングリなどの餌が森の中に少ないことが指摘されたが、ドングリのささやきが聞こえてきそうだ。「今年はふなり年だよ。人間はそんなことも忘れたの?」▼コナラやクヌギは成長が早く、伐採しても十数年で再生するため、薪炭材として重宝された。縄文時代はドングリを加工食品にしていたという。近年は、しっかり根を張ることから災害に強い森づくりの樹種や、火持ちの良いまきストーブの燃料として見直されている▼小説家開高健の言葉を思い出す。《身を捨ててこそ浮かぶ瀬もあれ谷のドングリ》。良い時もあれば、悪い時もある。全ての生き物は生かし、生かされている。主役は人間だけじゃないんだよ。見失いがちな命のつながりを、森のドングリは教えてくれる。

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