2020年11月2日付

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「東京タワーの最上部から目薬を垂らし、地上にいる人の眼球をとらえます」。にわかには信じ難かった。辰野町にある光学機器メーカーの技術者が、自らの作業の精度を例えた言葉である。ものづくりの世界はかくも驚異的で、奥深い▼今年の秋も信州の名工(卓越技能者知事表彰)を取材する機会に恵まれた。同じ系列会社のレンズ研磨工と旋盤工の男性2人。正確無比の技が生み出す医療用顕微鏡は、1万分の1ミリ単位に及ぶ最終調整が施され、設計図との誤差を限りなくゼロに近づけた製品となる▼超人的ともいえる技術を持つ彼らだが、入社理由は「給料をたくさんもらいたくて」など意外にほほ笑ましい。あどけない少年は血のにじむような修練を積み、いつしか各国の先端医療を支える至高の領域に立った▼良き技術者の共通点は、傲慢さがないことだ。完璧を追求する苦しみと乗り越えた喜びを知り、己の技が社会に役立つと自覚する。謙虚に構え、仕事の極意を惜しみなく後輩へと伝える姿は、分野を超えて人の模範を体現している▼県内最大の工業見本市「諏訪圏工業メッセ」はコロナ禍を受け中止になったが、今月から代替企画のオンライン商談会が行われる。信州が誇る技術者の情熱の火は、ウイルスなんかに消せやしない。「八ケ岳の頂上から紙飛行機を飛ばし、諏訪湖の真ん中に着水させます」。胸が躍るような例え話が聞きたい。

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