2020年11月12日付

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歴史小説も手掛けた井上靖の作品「戦国無頼」に、清澄な秋晴れの比喩として、〈石英のぶつかる音でも聞こえて来そうな〉との表現がある。ガラスのような艶のある鉱物の石英。一点の曇りなき晩秋の空を見上げ、耳を傾けてみた▼石英は結晶の仕方などで水晶や瑪瑙などと呼ばれる。陶磁器やガラスの原料にもなる。美しい天然物に神秘を見いだすのは自然な心の動きだろうか。火山が生み出した天然ガラスである黒曜石を、縄文人がキラキラ輝く星のかけらだと感じたとしても不思議はない▼八ケ岳を中心とした中部高地には、ほかでは類をみない縄文時代の黒曜石鉱山がある。国内有数の黒曜石原産地でもある和田峠から霧ケ峰の一帯には、星のかけらが降り積もった地にふさわしく、「星」を冠した地名がある。数千年をへてなお変わらぬ輝きを残す▼下諏訪町の国史跡「星ケ塔遺跡」が、1920(大正9)年の発見から100年を迎えた。国内で初めて見つかった縄文時代の黒曜石採掘跡である。貴重な資源の供給地であっただろう同遺跡の黒曜石鉱山を含む八ケ岳山麓の縄文文化は日本遺産に認定されている▼同町は節目を記念する事業を行っており、15日には遺跡の現地見学会が予定されている。存在感を高める機会にもなるだろう。解説を聞きながら空想の翼を広げれば、キラキラと輝く黒曜石が発する「音」が聞こえてくるかもしれない。

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