2021年1月1日付

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ある日、牛の元に神様から集合のお達しが届いた。牛は足が遅いからと夜明け前に歩き出した。かいあって一番早く着いたが、ネズミが鼻先から飛び降りてちゃっかり一番乗り。干支の物語の印象からか牛には堅実で辛抱強いイメージがある▼富士見町南原山の小林三四志さんの畜舎を訪ねると好奇心に目を見開いた牛たちに迎えられた。小林さんに体をぶつけ、頭を擦りつけて信頼を寄せる姿に、古くからの人と牛との深い関わりが垣間見えた▼今でこそ食卓以外は縁が薄いが、かつては暮らしを支える大事な家族の一員だった。ことに南原山の歴史は牛の貢献なしには語れない。第2次世界大戦後、入植した人たちが林野を拓いたこの地の史誌を開くと、牛とともに乗り越えた当時の苦労がつづられている▼イモばかりのかゆをすすり、月明かりを頼りに氷った芝にくわを入れる。正月も惜しんで汗するも、次々と出てくる大きな石に抱きつき泣いた日もあった。牛は、血汗を流す人びとの作業を助けて木の根を起こし、荷を運び、開墾後は乳牛として生計を支えてきた▼新年にあたって牛をたどるうちに、命懸けの日々を生きた先人の歴史に触れた。離れた家族との再会もままならない苦しい年明けではあるけれど、かつて辛苦の中でも希望を失わなかった先人、そして今この時も救命に力を尽くす人たちに心を寄せ、牛のたくましさにあやかりたい。

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