2021年1月6日付

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「先生、お願いします」。悪徳商人に促されて登場する眼光鋭い浪人。見るからにただ者ではない存在感を示しながらも主人公にばっさり斬られる展開は、勧善懲悪の時代劇にあって「お約束」のシーンと言える。主人公の強さを際立たせる上でも大切な役回りだ▼「5万回斬られた男」の異名を持つ俳優の福本清三さんが1日、77歳で死去した。大部屋俳優として数多くの時代劇ややくざ映画に出演した福本さん。時代劇に親しんだ世代ならば体をえびのように反らせて画面から消えていく、その見事な斬られっぷりが思い浮かぶだろう▼「死に方に手を抜いたらあかん」。脇役一筋の役者人生を振り返り、インタビューに答える記事を目にした。「斬られ役」を職人の域まで昇華させた福本さんならではの言葉。役割を理解し、仕事と真摯に向き合う姿勢は社会人として見習うべき点も多い▼福本さんの半生をつづったエッセーは中学生の道徳の授業にも取り入れられている。個性を伸ばし、充実した生き方を追求する狙いがあるそうだ。時代劇から遠ざかっている現代の子どもたちの目に彼の人生はどう映るのだろうか▼時代劇の殺陣には斬る者と斬られる者があり求められる演技も異なる。福本さんが選んだのはプロとして斬られる道。努力と実績に裏打ちされた信念を感じる。そんなかっこいい大人にこそ「先生」の敬称がふさわしい。ご冥福を祈る。

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