2021年2月8日付

LINEで送る
Pocket

20世紀の終わりごろから21世紀始めにかけて「御家人斬九郎」というテレビ時代劇が放映されていた。居酒屋で落ち合った斬九郎と芸者の蔦吉がしなやかな所作でお酌し合った後、「あとは手酌で」とするやりとりがずいぶん粋で格好良く見えて印象に残っている▼新型コロナウイルス感染症は酒の席のお酌にまで影響して、推奨されない行為になってしまった。もともと自分のペースに合わせて手酌で飲みたい向きには結構なことだが、寂しく感じる人もいるだろう。流行のオンラインで飲み会を開けば、いずれにせよ手酌になる▼「お酌」といえば、「灰坊太郎」という昔話がある。弊紙の小沢さとしさんの連載「今は昔のものがたり」によると、長者の娘が祭り見物で一人の若侍を見初めて「あの方以外にはお酒を注いであげません」というので、あちこちの男に会わせてみるが誰にも酌をしようとしない▼この若侍が実は、親に捨てられた末に長者の家で働いていた風呂たきの男、灰坊太郎の変装だったという、男女が逆転したシンデレラのような話で、面白いが、女性が男性に酌をするものという古い常識が透けて見えるようでもある▼お酌もコミュニケーションの一種。さまざまな常識を見直すきっかけになったコロナ禍は、気持ちの良い酒席のあり方について考えるのにもいい機会だ。斬九郎と蔦吉の距離感ぐらいが、ちょうどいい塩梅なのでは。

おすすめ情報

PAGE TOP