2021年4月4日付

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「梅の春」はどこかひそやかだが、「桜の春」はドラマチックに心をざわめかせる。桜の季に抱く日本人の感懐をエッセイスト森下典子さんが「ドラマチック」と見事に表現している。新年度のスタートを飾るのにふさわしい花である▼著書「好日絵巻 季節のめぐり、茶室のいろどり」(PARCO出版)収録の「花嵐」と題したエッセーで、森下さんは、「花見だ」「席取りだ」と色めき立つ春恒例の様子から〈日本人という生き物は、桜の開花と同時に、一斉に活動期に入る〉とつづっている▼活動期に入った季節に、巣立ったばかりの社会人1年生だろうか、真新しいスーツに身を包んだ若者を街中で目にする。ガタが来た体にムチ打って何とか日々をやり過ごしている身には、新鮮でみずみずしく、輝かんばかりのフレッシュマンの姿がまぶしく見える▼桜前線も駆け足で北上し、「春があふれる」という表現がピッタリな生命力みなぎる季節ではあるけれど、しばらくは緊張が続くであろう新人さんたちに、花をめでる心の余裕はないだろうか。ましてやコロナ禍の中である。なにをするにも戸惑いが先立つだろう▼年度が替わったからといって局面がドラマチックに変わるものではないけれど、憂き世だからこそ、ことしも花が満ちる、それだけで気持ちは晴朗になる。〈憂き世にはとどめおかじと春風の散らすは花を惜しむなりけり(西行)〉

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