2021年4月25日付

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昭和の面影が残る商店街を歩くと、凝った意匠で迫力ある構えの店を見かける。大正~昭和初期にはやった「看板建築」だ。上諏訪駅前通りにある旧銀行もその象徴的な建物の一つで、かつて「諏訪の銀座」と呼ばれた繁栄の歴史を物語っていた▼築90年超、度重なる塗装の上塗りでかつての細やかな技巧は見えにくくなったが、アール・デコ風の柱、窓、玄関口に重厚な面影がある。所有する東亜不動産社長の矢﨑隆也さんは「諏訪らしい歴史ある建物だから守りたいんだ」と愛着を語った▼わずかその翌日の24日朝。火事場へ駆け付けると、隣家で燃え上がった火が、白亜のその建物に移り、みるみる煙を吹き出した。矢﨑さんは言葉を失い、苦痛をこらえて見守っていた。その隣には、かつて築造した名工集団の後身、スワテック建設の伊藤信治さんの姿もあった▼伊藤さんは20年近く前、都内の建築家を招いて諏訪の近代建築物、看板建築の貴重さに光を当てた。商店主ら地元住民の心を動かし、保全の潮流を生んだ。多くの人の手、思いで守られてきた壁を無情に伝う炎に「諏訪の匠が建築技術の粋を集めた象徴でもあったのに」と無念がった▼高齢化、人口減とともに中心市街地の空き家、空き店舗が増えている。かつて店主が意気込みを意匠に刻んだ看板建築も、火災や老朽で年々姿を消している。時のすう勢と見過ごすのはあまりに惜しい。

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