2021年6月16日付

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毎年6月になると、口の中によみがえる味がある。木曽地方に伝わる朴葉巻き。先日お裾分けをいただき、変わらぬ美味に感動した。爽やかな芳香をまとった餅菓子が、初夏の季節感と若き記者時代を過ごしたかの地の思い出を運んでくれた▼小豆のあんを米粉の皮で包み、大ぶりなホオノキの葉で巻いて蒸し上げる。葉をほどいた瞬間に広がる香り、もちっとした食感と甘味がたまらない。20代のころ一度に5、6個平らげて夕食にしたのは、今は昔の笑い話である▼ホオノキは里山のあちこちに自生し、木曽では下駄の替え歯として用いられた。葉が手に入りやすい上に殺菌効果もあるため、夏場の菓子作りに重宝する。菓子店の店主から庶民生活になじんだゆえんを教わり、これぞ地域に根差した食文化だと記憶に刻んだ▼木曽に親戚がいる大伯母がよく作ってくれた、くるみの味噌をあんに使う朴葉巻きが好きだった。「おらの朴葉巻きは、よそ様のとはひと味違うぞ」。亡き彼女の笑顔と唯一無二のあの味は、色あせない幸せな思い出だ。秘伝の調理法を教わっておけばよかったと、ほろ苦い後悔もあるのだけれど▼コロナ禍は、日常の行動範囲から食の選択肢まで多くのことを限定した。それでも地域では、人の知恵や季節の恵みを生かした味覚が楽しめる。あなたの口の中によみがえる味は何だろう。心豊かに、それぞれの夏を過ごせますように。

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