2021年6月20日付

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夏ソバが咲き出し、緑色だった畑がだんだん白くなってきた。周りの田んぼではイネの緑が濃くなり、収穫期を迎えた麦は黄金色に輝く穂をこげ茶色に染め、風に揺らしている。その向こうには、あさぎ色のネギ畑が広がっていた▼夏至の頃になると、伊那市内の田園地帯には手芸のパッチワークのようになる場所がある。人が作り上げた風景だが、見ていて心地よい。作物が描くまだら模様は、何でも作ることができる豊かな農地の証拠でもある▼伊那は米どころ。かつての農村景観は一面水田で、この季節ならおそらく緑一色だったはず…。そう思って、昔を思い出そうとしてみたのだが、出てこなかった。どこも一面の水田が当たり前だったのか、田園風景がこの地域の特徴として記憶されていなかったのかもしれない▼風景には、過去と現在をつなぐ不思議な力があるように思う。それが絵や写真であっても、特徴的な風景が記憶を呼び覚まし、懐かしく話をさせることがある。そして、そのときを一緒に過ごした家族や友人の顔、声、出来事までも思い出させる。きっと、記憶の中の風景に、人との接点があるのだろう▼楽しい思い出とともに心に残る風景は、ふるさと回帰の動機にもなろう。友達との学校の行き帰りにここを通る子どもたちに、田畑のまだら模様が記憶として刻まれて、生まれ育った伊那の思い出として残っていくことを願いたい。

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