2016年09月13日付

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塩尻市の桔梗ケ原を車で通ると、全開にした窓から甘い香りが入り込んできた。一帯に広がるブドウ園からの秋の贈り物だ。思わず胸いっぱいに吸い込んだ▼ここでのブドウ栽培は1世紀余りの歴史がある。晴れの日が多く、日照時間が長い。栽培の適地ながら、冬の厳しい寒さが続くと実が付かなくなる「眠り病」にも苦しめられた。栽培法の研究や近ごろの地球温暖化の影響などで病気の心配も減り、高級品種の栽培も可能になった。ワインの品質は向上して国際的な評価も高まっている▼JR塩尻駅のホームにもブドウ園がある。特産のナイアガラとワイン用のメルローの木が2本ずつ。旧国鉄長野鉄道管理局が各駅で取り組んだ「一駅一名物」として1988年4月に誕生した。当時は、ひょろっとした木だったけれど、幹は大人の腕より太くなった▼アイデアを出したのは駅長だった中山登さん。「ワインの産地にふさわしくブドウを駅構内で栽培できたら」と生産・販売業者らに協力を呼び掛けて実現した。駅ホームにブドウ園があるのは、全国でも塩尻だけらしい。殺風景な駅に潤いを与え、旅情をそそり、心を癒やす―。そんな願い通り、ワインのまちを強く印象付ける立派な名物に成長した▼楽しみにしていた3年後の収穫を見ることはかなわず、病気のため50歳の働き盛りで他界された。人懐っこい笑顔で夢を熱く語った姿が思い出される。

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