2021年7月11日付

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校長先生が卒業式の式辞で「井の中の蛙」という話をしてくれた。「井戸」は山に囲まれた古里であり、「カエル」は小学校を巣立つ卒業生のことである。じめじめとした暗い井戸の底で、わずかな光を見上げている姿が思春期を迎えた自分と重なり、「いつかはここを出ていこう」と大海を夢見た▼塩尻史談会が1975年にまとめた〈塩尻の伝説と民話〉にこんな話が載っている。昔、10歳くらいの男の子が父親に連れられて、小野から諏訪へ行く峠に初めてのぼった。諏訪の平や諏訪湖が見えくると、男の子は目を輝かして父親に言った。「おとっさま、日本て、こんなに広いかぃ」。すると父親は「ばか言え。日本てなあ、この倍も広いわ」▼山に囲まれた信州では、峠を越えた新世界も「井戸だった」と感じることがある。今はネットで世界の情報にアクセスできる時代だが、歩いて人に会わなければ社会の全体像は実感できない。タブレット端末で学ぶ子どもの目は輝いているだろうか▼あす12日、東京都に4回目の緊急事態宣言が発令される。期間は8月22日まで。宣言下で行われる東京五輪(7月23日~8月8日)は都内全会場が無観客だ。首相は「全人類の努力と英知で難局を乗り越えていけることを東京から発信したい」と語るが、世界の人々に向けたメッセージは聞こえてこない▼この国はまるで「井の中の蛙」のようではないか。

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