2016年09月15日付

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昭和40年代中ごろ、国鉄が「ディスカバー・ジャパン」という旅の一大キャンペーンを行った。ほぼ時を同じくして「木曽路ブーム」が起こった。このブームのきっかけになったのが写真家の澤田正春とされる▼澤田は発電所建設の作業員などをしながら、昭和30~40年代の木曽の風景や人々をカメラに収めた。その写真集は反響を呼び、木曽路が日本の原風景として人気を集める契機になった。2014年出版の写真文集「文芸写真家 澤田正春の木曽路」は、写真とともに木曽谷で生き抜いた老人たちとの交流がつづられる▼その中に印象に残る挿話がある。澤田が奈良井のある宿を訪ねたときのことだ。座敷の板戸が恐ろしいくらいに美しく黒光りしていた。高齢のおかみさんは、「嫁に来た日から朝起きして、これを磨くのが仕事だった。(略)一日もかかしたことがない」と話した▼澤田は感心して、戸の黒さも見事だが「婆さんの白髪も美しい」と褒めた。おかみさんは「この白髪になるまでには、容易なことではなかったぞ」と笑ったという。きっと誇らしげな顔だったに違いない▼もうすぐ敬老の日。筆者のような初老を迎える世代からすれば、老後に不安は多い。しかし、年齢と上手に付き合い、地域で活躍する高齢者はたくさんいる。かなうものなら、木曽のあのおかみさんのように、白髪を誇りにできるような生き方をしてみたいものだ。

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