2016年3月1日付

LINEで送る
Pocket

鋭い冷たさが遠のき、こわばっていた心も体もほぐれる弥生。久しぶりに聞く鳥のさえずりに気持ちも弾む。ただ10年、20年後も、こうして新たな季節の訪れを喜べるだろうか▼高齢者の福祉施設で起きる暴力や殺人のニュースに触れるたび、ことにお年寄りは気が気ではないだろう。ついの住み家にも真の安心はないのか。まだその世代ではなくても、老後の身の処し方には漠然ながら不安を抱えている人が多い。陰惨な事件はその心配を増幅させる▼富士見町内の社会福祉士、後町みどりさんは、老いとは思うように動けないいら立ちや寂しさ、人の世話になる切なさなど「不安との闘い」と表現する。自分のこれまでを見直して「残る人生、老いを生き抜く覚悟が必要」と説く▼残雪深い2月の夜、富士見町社会福祉協議会長の森山誠さんはケアマネージャーから「梅の花を探している」と電話を受けた。「担当するお年寄りが今、逝こうとしている。その人が好きな梅の香りで送りたい」。慌てて裏山に入り、わずか2輪ほころぶ枝をやっと見つけて手折った▼人の手が支える介護の現場は、介護をする側も受ける側も、その人間性や人との関わり方、価値観が大きく影響する。単に命をつなぐ、衣食住を支える行為ではなく、その人がこれまでどのような生き方をしてきたのか、どう心を磨いたのかを試される、まるで人生の最終試験場のようだ。

おすすめ情報

PAGE TOP