2021年8月30日付

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その国を象徴し、国民に親しまれている動植物がある。クスノキの常緑性と香りを祖先に結びつけ、日本のシンボルに見立てたのは柳田国男と折口信夫の2人の民俗学者だった。日本人の”鼻の記憶”から原郷イメージを論じている▼クスノキ科の植物になみなみならぬ関心を寄せた柳田は、特に「クロモジ」に着目した。〈日本人の鼻の記憶、即ちいつまでも忘れがたかった木の香〉として、つまようじにも使われるクロモジの皮の匂いから、はるか昔の神を祭る木の証跡を探ろうとしたという▼民俗学者の谷川健一さんは「常世論―日本人の魂のゆくえ」(講談社学術文庫)で、クスノキ科のタブノキに執着した折口と柳田双方の説を挙げながら〈クスノキ科の植物に共通の芳香〉が原日本の過去に去来する記憶を思い起こさせるのではないかと記している▼その絶大な香り効果はむろん、近年は健康効果にも注目が集まり、「森の資源」としてクロモジを活用する取り組みが各地の自生地で広がる。養命酒製造や駒ケ根市など産学官でつくる「クロモジ研究会」のホームページをのぞくと、活用の幅広さに驚いてしまう▼9月6日が「クロモジの日」に認定されたことを記念し、同研究会がこの日に初の「クロモジサミット」をオンラインで開き、活動や事例発表をする予定だという。鼻の記憶を喚起し、魅力や可能性が多くの人に届く機会になるといい。

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