2021年10月9日付

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古くさくて高尚な趣味と思われがちな短歌にも、なかなかどうして多彩な面があると歌人の故河野裕子さんが随筆に書いている。正岡子規が友人に宛ててたくさん出した短歌形式の手紙「はがき歌」を例に、実用性もその一つだと言う▼その内容は親しみとユーモアにあふれていたとか。〈十四日、オ昼スギヨリ、歌ヲヨミニ、ワタクシノ内へ、オイデクダサレ〉。例えば歌会案内はこんな調子である。〈こんなはがき歌を貰ったら、誰でもうれしくなって行ってみるはず〉と河野さんは述べている▼〈ふだんのことばで気軽に書いて送る習慣は昔からこの国にあった〉と河野さん(著書「わたしはここよ」)。インターネットが普及し、その役割の中心はネットを介した即時、双方向性の伝言板(メディア)に移った。はがきや手紙の出番はだいぶ少なくなった▼郵便事業をめぐる環境は大きく変わり、日本郵便は今月から、はがきなど土曜日の郵便配達をやめた。郵便物の右肩下がりが続く中、配達日を減らすことで働き方改革を進めるという。全国一律誰もが安価に利用できる「ユニバーサルサービス」をどう維持するか▼子規の出身地の松山市では、「はがき歌」の全国コンテストを催している。今年発表の上位入賞作品に次の一首を見つけた。〈こっそりと赤いポストをのぞいたら言葉の海につながっていた〉。はがき1枚にも言葉の力は確かに宿る。

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