2021年11月12日付

LINEで送る
Pocket

半ば明かりを落とした店の戸をおずおず開けて伺うと、おかみさんが快く迎え入れてくれた。訪れるのは何十年かぶり。店内の様子は思いの外新しく、壁に貼られた手書きの旬のメニューが店の活気を物語っている▼料理を待つ間、ぐるっと見回してかつての記憶をたぐり寄せる。当時と変わらない間取りの小上がりに、幼い子どもの口に温かな料理をせっせと運ぶ両親の姿を思い出す。「創業50年を過ぎました」とおかみさんが言う▼その頃の街並みの回想に話が弾み、「線路側は本屋。国道側は魚屋、その隣はおもちゃ屋で…」などと聞くうちに、昭和の風景が古い動画を見るようによみがえってきた。「学校の先生への出前も多かったし、催事で150人前のカレーを頼まれた時は大わらわで」とおかみさんの思い出話も尽きない▼どの地域もこの数十年で街の景色が随分変わった。若い世代が次々に出店して客をつかみ、新たなにぎわいを生んでいる。その勢いと活気も魅力だが、やはり老舗の醸す安心感は格別だ。景気の盛衰を幾度も乗り越えてきたたくましさがある。長年、地域の人に支持されてきた味と姿勢にはブレがない▼新型コロナ感染の波が一時引き、街中に人が繰り出す日も増えてはきたものの、先行きの見えない不安は続いている。こんな時こそ老舗の底力と信頼が経済のよりどころに、店が結ぶ常連客のつながりが安らぎになる。

おすすめ情報

PAGE TOP