2021年11月24日付

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小中学生の息子たちに火災予防といえば?と尋ねると、間髪入れずに「火の用心、マッチ一本火事の元」と返ってきた。誰に教わったかは定かでないが、言葉は鮮明に覚えているという。世代を超え浸透する言葉、その意義。こういうのを名言と呼ぶのか、と納得した▼起源は戦国時代、徳川家康に仕えた武将が戦場から妻にあてた手紙だった。火事を起こすな、幼い息子を大切に、馬の面倒を見ろ―との短い文面。書き出しの一節「火の用心」が、いつしか夜警の決まり文句となって現代に受け継がれた▼辰野町下辰野には、子ども会育成会を中心に20年余り続ける伝統行事「子ども拍子木隊」がある。秋の火災予防運動期間中、小学生が商店街を練り歩いて拍子木を打ち鳴らし、くだんの言葉を響かせる。住民が店先に出て笑顔で見送るのも、なじみの光景である▼多忙な世にあっても、大人は時間を割いて火災予防の心を次世代へ説いてきた。暖房器具が電化し、マッチを使う機会がほとんどない子どもたちにも、共有する言葉の重みは伝わるだろう。絶やさずに継続したからこそ残る行事の記憶は、真に尊いものだ▼今年も子どもたちは元気よく「火の用心」と繰り返した。彼らは注目を浴びて少し恥ずかしそうに、しかし前向きな視線に地域安全を担う誇りもたたえて通りを進んでいった。形骸化せずに生き続ける言葉が胸を打つ、晩秋の一日だった。

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