2021年12月16日付

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紅葉はすでに終わり、菊も末枯れ、気づけば梢に残っていた渋柿の赤い実ももう見当たらない。12月ともなれば辺りから色が消えていく。本格的な冬に向かう時分に兆す不安な心の動きを、幸田文さんが随筆「山茶花」に書いている▼すっかり冬になってしまえばいいが、冬へと移ろっていく合間は嫌だと。〈日毎に寒く冷たく、なにか追いかけられているような、こせついた気になります〉という幸田さんの言葉に、ぼんやりした不安の中で、気ばかりせいている今の自分は深くうなずくばかり▼本格的な冬の寒さを待望している人は少なくないだろう。伝統食の寒天や凍み豆腐作りに携わっている人しかり、スキーやスケート施設の関係者しかり。暖冬ともなれば、こうした産業に影を落とす。季節の変わり目に心配ばかりが先に立つ温暖化のご時世である▼一方では、寒くなるにつれ増してくる不安もある。現在は落ち着いている新型コロナウイルスの感染状況が果たしてどうなるのか。医療従事者からワクチンの3回目接種も始まっているが、年末年始で人の移動が増える時期だけに、まだまだ警戒は怠れないだろう▼幸田さんは、色を失った冬の入り口に気取りもなく咲く山茶花に心の安らぎを得ている。それゆえ1年が平穏無事に暮れることを願い、その花を飾るのだと。何気ない日常に幸せを見いだしつつ、この1年を締めくくる準備を進めよう。

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