時代小説家の大久保さん 長編シリーズ発刊

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「二之丸騒動」を取り上げた時代小説の長編シリーズ第1弾「竜神の髭」を手にする大久保智弘さん=茅野市の自宅で

時代小説家の大久保智弘さん(74)=茅野市=が長編作品としては約5年ぶりとなる「天然流指南1 竜神の髭(ひげ)」を発刊する。時代は江戸時代中期。高島藩(諏訪藩)のお家騒動「二之丸騒動」を江戸に道場を構える武芸者の視点から描いた。都内を拠点に数々の時代小説を世に送り出してきた大久保さんは今、古里の茅野市で過ごす時間を大切にしている。「今後は諏訪を描いた作品を手掛ける。作品を通じて全国の皆さんに諏訪を伝えたい」と意気込む。

大久保さんは諏訪清陵高校を経て立教大学に進み、都立高校で国語教師を務めながら、小説を手掛けた。1994年に「わが胸は蒼茫(そうぼう)たり」(刊行時は『水の砦―福島正則最後の闘い』に改題)で講談社、朝日放送主催の第5回時代小説大賞を受賞し、文壇デビューを果たした。これまでに御庭番宰領シリーズ(1~7作)、「木霊風説」、「火の砦」などを発表。木曽義仲を軸とした歴史小説「モレヤ」を長野日報で長期連載した。

天然流指南シリーズの第1弾となる「竜神の髭」は、主人公の道場主・酔狂道人酒楽斎(すいきょうどうじんしゃらくさい)が江戸の夜の裏通りで出会った血だまりの女が残した「リュウジンノヒゲ」という遺言の謎を探り、やがて諏訪大明神家の子孫が治める藩の争いに巻き込まれていくストーリー。20日発行の第1弾では、諏訪信仰、諏訪湖の龍神伝説、御神渡りなどが登場し、諏訪藩の江戸屋敷を舞台にした酒楽斎と仲間たちの活躍が描かれ、江戸から上諏訪を目指す甲州街道中や到着した上諏訪の街での様子が細やかに描写されている。

大久保さんは以前、ある文芸評論家との懇談で古里の話になった際「諏訪は面白い場所。なぜ諏訪を書かないのか」と問われた言葉が今でも胸に残っている。帰省するたびに「古里の良さがなくなりつつある」とも感じ「自らの経験を生かして諏訪のために何かできないか」という気持ちが募っていた。

2020年冬に生活の中心を茅野市に移した後、高島藩用人・塩原彦七の子孫で高校時代からの親友、塩原晴彦さんの依頼を受けて彦七が残した「和田嶺合戦」(幕末の水戸藩浪士天狗《てんぐ》党と高島・松本両藩連合軍との戦い)の直筆の自戦記(漢文)を現代語訳し、彦七の生きざまに触れたことを機に「残りの作家人生を懸けて諏訪を描こう」という思いを強くした。江戸から見た諏訪の視点は中央の文壇で活躍してきた大久保さんだからこそ描ける視点といっていい。シリーズ第2弾以降の発行に向けても精力的に取り組んでいる。

同作は文庫本で税別700円。二見書房刊。

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