2022年1月30日付

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心ひかれる眺めは人それぞれにあるだろう。信州らしい雄大な山川や田園、歴史情緒あふれる町並み、子どもらが憩う公園。幾世を経て受け継がれた景観の前に立てば、おのずと尊さが伝わってくる▼辰野町の国天然記念物「小野のシダレグリ自生地」は、地域きっての名勝である。岡谷市と結ぶ町道の山肌に、約900本のシダレグリが並ぶ自生地はある。屈曲した幹や枝に白雪が乗る光景は水墨画のような幽玄さをかもし、見る者の感情を揺り動かす▼一帯は江戸時代から続く農用林だったが、シダレグリは他の草木と違い、現代まで伐採されずにその姿をとどめた。町教育委員会は「特有の樹形や天狗が住む森との伝承により、意図的に残されたのでは」と推察。先人も見ほれた木々は長年にわたって保護され、2021年に晴れて記念物指定100周年を迎えた▼近年は枯損が目立つようになり、樹間の過密や日照不足といった課題を改善すべく再生事業が進められている。手つかずのまま保たれる自然もあれば、人による丁寧な管理を必要とするものもある。目線をこちらに転じれば、人は景観の創造者にも、破壊者にもなり得るということだ▼今年も息をのむほどに美しいシダレグリと対面し、時間を忘れてカメラのシャッターを切った。ああ、この眺めを守りたい。自然と湧き出た思いが、身近にある大切な景観も見つめ直す種になればと願う。

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