100年ぶり再生 植松さん宅土蔵の鏝絵

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土蔵、鏝絵の再生を喜ぶ植松昭郎さん

富士見町立沢の植松昭郎さん(69)宅土蔵に、100年ほど前の鏝絵が色鮮やかによみがえった。小さな鏝を駆使してしっくいを盛り、文字や縁起物の絵を浮き彫りにする左官職人の芸術技で、茅野から原、富士見の八ケ岳西南麓で多くみられる。ただ老朽化とともに土蔵が徐々に姿を消し、かつての芸術美も保護が難しくなっている。植松さんの蔵への思いをくんだ地元工務店の計らいで、しっくい彫刻を趣味とする諏訪市桑原の三井三男さん(84)が彩色に初挑戦した。

鏝絵研究が進む原村教育委員会によると、しっくい彫刻は江戸末期~明治時代に入江長八(静岡県出身)が装飾芸術へと高めた。南諏地域への広がりは、入江の直弟子らから技法を学んだ茅野市の名工、小川天香(1878―1950)が地元職人へ伝えて定着した。

文化財係の平林とし美さんは、「職人個々に独自のデザインを有し、それを誇ったらしい。原村では富の象徴として家々が装飾にも意匠を凝らした」と説明する。

現在、鏝絵を手掛ける地元職人はごくわずか。住まい方の変化で土蔵の必要性も薄れ、老朽に伴って取り壊されることが多くなった。

■建築以来初の大改修

そうした中で、植松さん宅は昨年、建築以来初の大改修に踏み切った。1959年に一帯を襲った河川氾濫(34災)の際には一家で逃げ込み、無事を得た思い出もあり、「米作物と命を守ってくれる」と心を寄せる。施工は植松工務店の植松幸房さん(75)が指揮を執り、古い材をできるだけ生かして屋根のふき替えや外壁補修をし、色あせた鏝絵の再生を三井さんに掛け合った。

■土蔵見て歩き 色使い研究

三井さんは幼少期から絵を描くのが好きで、しっくい彫刻は7年ほど前から楽しむ。手掛けた鏝絵は直径約80センチで大黒天のデザイン。彩色時には一面に白く化粧直しをされて「目鼻の位置は分かるが、色形、表情が全く分からなかった」(三井さん)ため、茅野から原の土蔵を見て歩き、色使い、筆遣いを研究したという。作業は路上からの見栄えも確かめながらひげを描き足したり、細部の模様を加えたりと創意工夫をして2日半で完成させた。

施主の植松さん、工務店の植松さんはともに「とてもいい出来。蔵に存在感が出た」と満足げ。三井さんは「かつての左官職人の技術の高さを実感した。また機会があればやってみたい」と話す。

村教委の平林さんは「立体感を生む濃淡の表現が見事」と三井さんの技に感じ入り、「鏝絵の芸術的な魅力、貴重さを多くの人に知ってもらう機会になれば」と期待。「土蔵取り壊しの際には鏝絵寄贈の声を掛けてほしい」と保護への願いも語っている。

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