2022年3月17日付

LINEで送る
Pocket

子どもの頃、近所の大工さんが材木を削る姿にしばしば見とれた。鋭い目つきで木の目を読み、のこぎりを引き、かんなをかける。その傍らで立ち込める木の香りに深呼吸し、軽やかに舞う木くずの美しさに歓声を上げた▼近年は丸太を製材する技術者も、材木を手作業で加工する大工職人も随分減ったという。その中で茅野市宮川の藤森秀典さんは、山から木を切り出し、製材、建築まで一貫手掛ける数少ない匠だ。大正時代からの家業を継いだ▼材を育む山の状態、建築に携わる作り手の思い、消費者のニーズまで家造りをめぐる全てが見渡せる。その視点から近頃、住宅の寿命がどんどん短くなっていることに不安を抱いているそうだ。「植樹した木が建築用材になるまでに70年以上かかる。それを下回るペースで家を建て替えていたら自然の循環が崩れてしまう」▼里山と共存する地域の暮らしを守るため、藤森さんは「最低でも百年は住み続けられる家を造らなくては」と心する。本来、企業にとって消費は短サイクルな方がいい。しかし匠は地域全体や自然との調和の中に建築業の将来を置く▼世界でこうした企業が増えている。地球規模で持続し続けられる社会を目指し、国家武力と対峙して大きな痛手を引き受けてもその信念を貫いている。消費者の私たちにも世界を将来へつなぐための強い覚悟が要る。ことに今は正念場ではなかろうか。

おすすめ情報

PAGE TOP