2022年3月22日付

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飲食店で見た数年前の光景を思い出している。2、3歳だろうか、お母さんがわが子に「いないいないばあ」をしている。「きゃっきゃっ」とはじける声。仕事上のトラブルから屈託を抱えていた日で、その笑顔に救われた気がした▼最近読んだ小川洋子さんのエッセーに「幸福のおすそわけ」と題した一文があった(「遠慮深いうたた寝」河出書房新社)。〈幸福な子どもがすぐそばにいるだけで、幸福を分けてもらえる〉と作家は書く。「そうそう」と共感しつつ、過去の記憶にしばし浸った▼なにものにも代えがたい存在であるはずなのに、かの国では子どもたちの目からおびただしい泪が流れている。ロシアの攻撃が激しさを増し危殆に瀕しているウクライナである。状況を伝えるテレビに助けを求める子どもの姿が映し出されている。正視に耐えない▼ウクライナ国内で支援活動をしているユニセフによると、国外への避難を余儀なくされている子どもはすでに150万人余に上る。1秒当たり1人が難民になっている計算だという。親や家族と離れ離れになった子どもも多い。もちろん、今はコロナ禍の中である▼自分自身これまで、どれほど子どもたちから「幸福のおすそわけ」を受けてきただろう。だからこそ幼い命が奪われたときは胸が痛む。「助けられなかったの」。今回の戦禍で幼いわが子を亡くした母親の悲痛な声が耳朶に残っている。

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