2022年4月20日付

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風にも表情がある。建築家安藤忠雄さんはエッセーで、四季折々、刻一刻と様相を変える風の「表情」を、自身の子ども時分を回想しながら描いている。季節を通じて特徴ある風の吹く国ではあるけれど、顔に見立てたことはなかった▼言語学者瀬戸賢一さんが自著で紹介したこのエッセー「冷房」を読んだ(1991年、朝日新聞掲載)。安藤さんが子どものころ住んだ長屋は建て付けが悪く、冷たい隙間風の顔は冷徹で憎々しい。一方、春の風は急に優しげな表情に変わり、心を和ませたとある▼住環境も整い、空調設備は快適な暮らしにいまや欠かせない。ただ一定の温度と湿度に設定された人工の風には表情がない。風に個性があることを知らずに育った子どもたちに、折節の変化をよしとしてきた日本人の感受性が果たして育つのかと、心配もしている▼コロナ下で、外から吹き込む風を感じる機会が増えた。感染対策として定期的な換気は必須となっている。冬場の冷気は身にこたえるし、突風に机の書類を飛ばされて慌てることも。いら立つこともあるが、優しい風に包まれたときフッと心までやわらぐ気がする▼十分に目を楽しませてくれた桜を春風が散らすと、季節の移ろいを感じる。きょうは二十四節気の「穀雨」。雨が地や草花を潤し、ひと雨ごとに緑も濃くなっていく。屋外に出て爽やかな風を全身で受け止めたい。薫風の季節も近い。

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