山岳専門の気象予報士で、茅野市豊平で山の天気予報専門会社を営む猪熊隆之さん(53)が、気象情報を配信しながらという独自のスタイルで世界最高峰エベレスト(標高8848メートル)の登頂を成功させた。登頂に至らなかった2003年の挑戦から21年を経て、5月21日午前8時10分ごろ(現地時間)、ついに頂に立った。
猪熊さんは国際山岳ガイドの近藤謙司さんが率いる公募登山隊に参加。猪熊さんと同様に過去にエベレスト登頂を試みた経験を持つ山岳カメラマンの三戸呂拓也さんが同行し、登山の様子や猪熊さんが山中で予報する様子などを撮影した。
猪熊さんは4月10日にネパールの首都カトマンズに入り、酸素の少ない高地の環境に体を慣らす高所順応のトレーニングを重ねた。一時、体調不良で入院も経験したが、コンディションを整え、4月26日にベースキャンプ(5350メートル)に到着。さらに高所順応を行った。
5月17日未明にベースキャンプから登頂に向けた挑戦を開始した。20日夜に登頂前の最後となる第4キャンプ(7900メートル)を出発し、21日に登頂を成功させた。ともに悔しい経験を持つ三戸呂さんとともに歓喜の瞬間を分かち合った。帰国後、猪熊さんは長野日報の取材に「見上げていた山々のすべてが下に見える景色は今でも忘れられない」と語った。
気象情報を配信しながら登山をする猪熊さんのスタイルは、昨年9月に成功させたヒマラヤ山脈に属する世界8位の高峰マナスル(8163メートル)の登頂に続く取り組み。天気図や現地での雲の変化など基にした気象予報を、登頂を目指す別の登山隊にもメールやSNSを通じて発信した。
高峰では気温とともに風の見極めが重要視される。低体温や体ごと吹き飛ばされるリスクがあるからだ。晴天時の風の予報は天候の予報よりも難しい。ジェット気流の動きをベースに現場の状況を踏まえて最適な予報となるよう情報を修正し、発信した。
エベレスト登頂の経験はマナスルと同様に「現場を経験した人間だからこそできる山岳の気象予報につなげられる」と猪熊さん。今後、三戸呂さんが撮影した映像を活用しながら、エベレストの美しさや山岳の環境問題などについて経験を多くの人に伝えていく考えだ。
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