戦後の日本を代表する作家で、ノーベル文学賞候補でもあった三島由紀夫(1925~70年)。その生誕100年を記念した企画展が東京・駒場の日本近代文学館で開かれている。昨年12月、出張のついでに足を運んだ▼特段、三島に心酔しているわけではない。覚えがある作品も「金閣寺」に「潮騒」「仮面の告白」「憂国」…と片手で足りそうだ。ただ出張の1カ月前に”金閣寺の原題は人間病”の報道に触れ、初期構想を示す編集者宛ての手紙が展示されると知り興味が湧いた▼「金閣寺」の連載は56年に始まり、その着想は50年に起きた実際の放火事件とされてきた。だが新発見の手紙には事件への言及がなく、定説が覆されそうだという。企画展(8日まで)では、傑作小説の創作過程に迫る展示の前で多くの三島ファンがうなっていた▼にわかファンの身としては場違いな感もあったが、それなりに楽しめた。展示を巡り、初めて「金閣寺」を読んだ中学生の頃を思い起こす。思春期の背伸びで手にした小説は暗くて難解だった。それでも見慣れない言葉を辞書で引きながら、次第に没入していった▼節分のきのう、中南信地方の岳麓がうっすらと白く染まった。三島の遺作「豊饒の海」は全4巻で構成され、恋愛をテーマにした第1巻のタイトルが「春の雪」。窓の外を眺めつつ、三島の節目にふさわしい立春ではなかろうか-と感慨にふけった。
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