夕方、子どもたちに「そろそろ家に帰る時間ですよ」と知らせる音楽が防災行政無線で流れる。自治体によって曲も呼び方もさまざまだが、岡谷市では「愛の鐘」と言って、1~3月は「家路」、4~10月は「琵琶湖周航の歌」、11~12月は「この道」が使われる▼「琵琶湖周航の歌」に地域の特色が表れている。作詞者は同市出身の小口太郎。京都大学の前身の第三高等学校に進学して水上部(ボート部)に所属した小口が琵琶湖周航の行事の際に仲間と作った歌という。釜口水門の近くに諏訪湖を見つめる小口の像が立っている▼小口は東京帝国大学理学部物理学科に進学し、科学者として身を立てたが1924(大正13)年に26歳の若さで亡くなる。開会中の市議会定例会で「没後100年の節目の来年度に功績を顕彰する企画を考えているか」との趣旨で一般質問があった▼2018年には小口太郎顕彰碑等保存会と岡谷商工会議所が中心となって生誕120周年、琵琶湖周航の歌100周年、顕彰碑建立30周年記念のイベントが行われたが、来年については「現時点ではイベント等の開催も含め未定であると保存会からお聞きをしている」と市の回答はややつれない▼質問した藤森弘議員も言っていたが、その歌詞は不自由な時代を生きる若者の心情が湖の情景描写に織り込まれているようにも読める。機会あるごとに思いをはせる価値はあると思う。
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