2019年05月02日付

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先日亡くなった下諏訪町の文筆家で元地域紙記者の市川一雄さんは、多くの著作を世に出した。近作では諏訪地方の製糸業の発展と経過をまとめた「岡谷製糸王国記」や、諏訪湖への思いをつづった短編小説集「四王湖岸」…。地域にこだわる姿勢が印象に残る▼そうした労作の中で個人的に引かれる一冊が、1990年に出版された「すわ湖の町の平成元年」である。同町の平成の最初の1年を、撮影した写真と簡略な文を使い、1日ごとに紹介した。何とも着想が面白く、見事に世情を映し取っている▼時代が幕を開けた1月8日は、明治生まれの元製糸工女が平成初日の新聞を開くシーン。ある理髪店の風景、喫茶店で憩う老夫婦など住民の日常が次々に登場する。今はなくなってしまった繭倉や、人気を集めた安売りチェーン店なども出てきて懐かしい▼「写真考現学」の副題がつく。今ある社会現象を見て、現代とは何かを見い出そうとするものだという。市川さんは「1日1枚の写真で、自分の住む町の姿と時代の様相を多面的、立体的に捉えたいと考えた」とあとがきに記している▼新聞記者としての経験を生かした一冊と言えるのだろう。考えてみれば、日々の住民の営みや出来事を記録していくのは、地域新聞の使命そのもの。令和の時代が始まった今。地域に住む人たちの生活を映し出す記事を新時代も届けたいと気持ちを新たにしている。

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