2020年10月6日付

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はぜに掛かった稲穂が穏やかな日差しを浴びている。農作業が一段落した風景は郷愁を誘う。農家の美学とでも言おうか。農家の仕事は春先の土耕から秋の作業じまいまで隅々に気持ちが行き届き、端正だ▼土起こしや田植えの時でも道を汚さない。土手は見事に刈られ、生育を助ける支柱や棚の仕立ても無駄がない。収穫を終えたあぜのワラ束さえ整然と並んでいる。毎日、土に膝をつき、1本の草も抜く労をいとわない努力のたまもの▼丁寧な作業は良質な作物を作るための知恵ではあるが、収穫できれば全てよし―では済まさない周囲、地域への気遣いが深い。農地の維持は賃貸や売買である程度継続できるが、長年培った「お百姓さんの心」を受け継ぐのはたやすくない。農業だけでなくさまざまな産業の事業継承、移住定住の難しさもそこにある▼富士見町の移住施策担当者は近頃、「誰でも歓迎の誘致策では駄目だと気付いた」そうだ。「将来にわたり土地に手を入れて守り、富士見のよき風習を受け継いでくれなくては意味がない」。そうして施策の力点を町出身者のUターンにも置いた▼数年前の町の調査では高校生の親の9割が子どもに将来、町での暮らしを勧めていないとあった。年頃の子どもを持つ親の、言いたくても言えない願いを酌んだ施策重視の今後が楽しみでもある。都会暮らしを満喫する富士見っ子を振り向かせてほしい。

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