2020年11月29日付

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静寂に包まれた早朝の湖面と露に濡れた足元の青葉…、一瞬の波紋と小さなさお先のしなりから始まる格闘の末に水面を割って姿を現す厳しい環境を生き抜いた精かんな顔つきの巨大魚…。主人公の三平三平が真剣勝負で挑む魚釣りを描いた漫画「釣りキチ三平」の1シーンだ▼作中の動植物や魚との駆け引きの描写は秀逸で、実際の釣り場で起きる緊迫感や高揚感をみごとに再現する。作者の矢口高雄さんが今月20日、すい臓がんのため81歳で死去した▼矢口さんは秋田県の雪深い山間地に生まれ、幼少から奥羽山脈の大自然に囲まれて成長。高校を卒業して銀行に就職したものの、夢を捨てきれずに30歳で退職後、上京して漫画家になった。釣り人や猟師、鷹匠などを題材に、自然と人との関わりを描いた作品が多い▼「釣りキチ三平」では釣りシーンばかりに気を取られるが、三平君は人に優しく、釣り上げた魚を常に大切に扱う。そこには人は自然の一部で、魚も仲間という慈愛がある。生前、矢口さんは「人間の文明がいかに進歩しようと自然の理からは逃れられない」と言った▼矢口さんは作中に、たびたびハンサムに描いた自分を登場させ、釣り場のごみの片付けや疲れて帰る釣り人の交通安全を呼び掛けた。「釣りキチ三平」に影響を受け、魚釣りにのめり込んだ一人として、作者が作品に込めたメッセージの実践者になれるよう努めたい。

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