2021年2月10日付

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精進潔斎という言葉を知ったのは20年余り前、諏訪湖の御神渡り(御渡り)を取材したときだった。辞書を引くと、《飲食を慎み、心身を清め、けがれを避けること》とある。神事に臨む心構えと言われる▼全面結氷した諏訪湖に御渡りが出現すると、神事をつかさどる八剱神社(諏訪市小和田)の神職や氏子総代は、拝観式に向けて本格的な精進潔斎に入る。当時、小和田地区の家々には正月でもないのにしめ縄が掲げられ、地域全体が厳粛な雰囲気に包まれた▼御渡りは諏訪大社上社の男神が下社の女神のもとに通った道筋とされ、南北に走る筋を「一之御渡り」「二之御渡り」と名付け、二本と交わるものを「佐久之御渡り」と呼ぶ。拝観式で神職と氏子総代は精進潔斎の証しであるしめ縄を肩から掛け、3本の筋を確認し、氷のせり上がりに深々と頭を下げる▼今季の諏訪湖は「明けの海」となったが、年明けから観察を続けた氏子総代の一人は「ビールを断っている」と語っていた。自然の力に畏敬の念を抱き、精進潔斎を行う人々の決意と覚悟が、諏訪を諏訪たらしめている▼小学生の頃に氷の張ったため池に落ちたことがある。はい上がろうとしたが、氷が割れて何度も滑り落ちた。氷の上で遊んだ罰が当たったんだと親に叱られたが、池の底に沈んだ一瞬の静けさと巻き上がる泥を今も覚えている。自然を汚してしまった。そんな感覚だった。

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