2021年10月6日付

LINEで送る
Pocket

10年以上調律を怠っていたわが家のピアノ。時折家族が聴き覚えのある旋律を奏でてはいたが、音程が相当狂っていたらしい。「すごく気持ち悪い」。みけんにしわを寄せながら鍵盤をたたく姿にたまりかね、ついには調律をお願いすることにした▼コロナ禍による在宅時間の増加に伴い、調律の需要も高まっているのではと懸念したが、演奏会の減少によりそれほど忙しくないとか。音叉やチューニングハンマーを駆使して88個の鍵盤を一つずつ調整していく作業は浄化を促す神聖な儀式のようにも見えた▼「かなり狂っていましたね」。作業を終えた調律師の言葉にただただ恥ずかしい気持ち。ピアノの管理を怠っていた事実よりも、そこまで狂った音を違和感なく受け入れていたという感覚のずれを見透かされたように感じたからだ▼音楽の素養が足りなかったのか、あるいは日々続く異常に慣れ過ぎていたのか。調整を終えたピアノは本来の音色を取り戻し、その違いは素人の耳にも歴然。調律が必要だったのはむしろ、おかしいものをおかしいと感じなくなっている自分自身の感覚だったのかもしれない▼秋は芸術、スポーツ、読書などに最適とされる季節。感覚のずれを補正するにはよい機会だ。受け止め方が変われば、これまで見えていなかったゆがみに気付くかも。自分自身のチューニングをゆっくり楽しんでみる秋の夜長も悪くない。

おすすめ情報

PAGE TOP