2021年11月22日付

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解剖学者の養老孟司さんは著書で「人の死には一人称、二人称、三人称の3種類がある」と述べている。一人称は「自分の死」、二人称は「身内や友人など知っている人の死」、三人称は「知らない人の死」だ。自分は死んでしまえば死の認識がなく、知らない人の死は「自分の死には影響しない」という▼だが二人称の死は「世界の見え方が変わることも珍しくない」と説く。今月上旬、実父が他界した。85歳。腰痛が悪化して寝たきりになり最期は眠るように逝った。本人の遺志で葬儀は家族葬とし、母と私、妻、長女、長男で行った▼家族だけの葬儀は初めてだった。会葬者を気遣う必要がなく、父の死に正面から向き合えた。家族5人で遺体を棺に納める。高校生の長女と長男が、父にあの世への旅の衣装を着せ、花を飾った。その棺を火葬にして骨を拾った。穏やかな時の流れの中で、子も孫たちも死の現実を直視した。それは父としての最後の教育だったかもしれない▼父は入院を嫌った。自宅で寝たきりになった時「家族で看病だ」と覚悟を決め、母が食事を与え、妻が洗濯、私も布団などを取り換えた。看病で最期まで間近に接し、自然と死への心の整理が付いていたのだろう。葬儀の当日、家族に涙はなく久しぶりに家内でゆっくりと話ができた▼棺には父が好きだった日本酒のカップとスルメを入れた。今ごろ一杯やっているに違いない。

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