2022年4月17日付

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「人は生まれた瞬間から死に向けて歩み出す」。限りある人生を有意義に生きるよう諭す法話を幾度となく耳にしてきた。もっともな話だと思う。ただ日々の生活に追われ、思考停止に陥った人間にはなかなか響いてこない▼死を意識してこそ見えてくるものがあるようだ。黒澤明監督の映画「生きる」では、がんで余命宣告を受けた公務員が市民のために小公園を建設しようと奔走する姿が描かれている。実際に終末期を迎えた患者やその家族に接し、濃密な時間を過ごしていることに驚いた経験がある▼15年ほど前、伊那市でがん患者を対象とした交流の場づくりを取材した。発起人の一人は自らも闘病生活を続ける女性。「自分にできる形で同じ病気に苦しむ人たちと元気になれたら」と充実した表情で語っていた。女性は会の発足後1年足らずで亡くなったと聞く▼死は身近な人間にも影響を及ぼす。駒ケ根市では闘病中の子どもとその家族が気兼ねなく過ごせる場所づくりが進められている。主導するのは息子を悪性脳腫瘍で亡くした父親。限りある時間を懸命に生きる子どもとその家族への支援は「息子が残してくれた私への使命」と信じている▼いずれも「生きた証」と呼ぶにふさわしい取り組みではないだろうか。形はどうあれそう思わせる人生は輝いて見える。虎は死して皮を残す。自分は何を残すのか。「後悔」でないことを願う。

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