過労自殺 これ以上悲劇を繰り返すな

LINEで送る
Pocket

広告大手、電通の女性社員=当時(24)=が昨年末、自ら命を絶った。労災認定されたのを受け、母親は「命より大切な仕事なんかない」と無念さをにじませ、過労死を二度と起こさないよう社会に訴えた。国の責任を明確に定めた「過労死等防止対策推進法」が施行されて2年になるが、なぜ悲劇は繰り返されるのか。政府や企業は遺族の悲痛な叫びを肝に銘じ、過労死や過労自殺の撲滅に全力を挙げて取り組むべきだ。

女性社員が過労自殺した4カ月前、電通は、違法な長時間労働があったとして労働基準監督署から是正勧告を受けていた。にもかかわらず、女性社員の残業は月105時間に達していた。同社では、3年前に中堅の男性社員が過労死していたことが新たに分かった。1991年には入社2年目の男性社員も過労自殺している。過重労働を黙認してきた責任は重い。

東京労働局は、違法な長時間労働が常態化している疑いがあるとみて電通本社(東京都)と支社3カ所だけでなく、主要な子会社にも抜き打ちの立ち入り調査を行った。対象を子会社にまで広げるのは異例の措置だ。

遺族側によると、残業時間を過少申告させたり、上司のパワハラ発言もあったと主張している。社員が過労死したり、若手社員を自殺へと追い詰めた原因はもちろんだが、これ以上犠牲者を出さないためにも勤務実態を徹底的に究明し、違反事案には厳しく対処してほしい。「働き方改革」を掲げる政府の本気度が試されている。

その政府は今月、「過労死等防止対策白書」を閣議決定した。それによれば、2015年度に過労死や過労自殺による労災認定は189件に上り、過労死ラインとされる月80時間以上残業した正社員のいる企業は2割を超えた。

この白書に、武蔵野大学の教授が「残業が100時間くらいで過労死とは情けない」とインターネットに投稿し、謝罪に追い込まれた。自身がモーレツに働き、辛い経験を乗り越えてきたという自負があり、それが高じて遺族の悲しみを逆なでするような発言につながった。企業経営者の中には、己が成し得た成功体験を若者に押し付けがちだ。だが、そうした風潮や考えが長時間労働を助長する原因の一つになっている―という現実を見過ごしてはならない。

おすすめ情報

PAGE TOP