2016年10月26日付

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〈柿くへば鐘が鳴るなり法隆寺〉。俳人正岡子規は柿が大好物だったらしい。結核を患い、34歳で亡くなった。病床でもよく食べていたようで〈柿くふも今年ばかりと思ひけり〉の句も残している▼柿くへば―は、明治28(1895)年10月26日からの奈良旅行で詠んだとされる。これを記念して、きょうは「柿の日」。全国果樹研究連合会が、柿の消費拡大を願って制定した。栄養価が高く、干してもおいしい。あちこちで色づいた柿の木を目にし、実りの秋を実感する。一方、収穫されないまま冬を迎える光景を思うと寂しくもなる▼〈鍬を取る人の薄着や柿紅葉〉。こちらは幕末から明治にかけて伊那谷を放浪した俳人井上井月の句。「柿の葉が色づいた晩秋、鍬を取って耕す人は薄着だなと感心している。体に汗して働く人は皆薄着だ」。評釈を竹入弘元さん=伊那市=の著書「井月の魅力」から引いた▼柿にまつわる奇行逸話が昭和初めに出版された全集に載っている。題して「柿の葉のお土産」。あるとき、井月が落ちている柿の葉を拾い、しきりに着物でこすってほこりを落としている。何をするんだろうと見ていると、やがて家に入って妻女の前へそれを出し「ハイ、お土産」▼つややかな柿の葉を目にした側の反応はどうだったろう。ばかにしているとあきれたか、野の土産だと温かく受け止めたか。無一物の井月はどんな思いを込めたのか。

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