日差しがギラギラと夏の照りを帯びてきた。在野の天文研究者、故藤森賢一さん(諏訪市)は、この太陽に70年近く毎日望遠鏡を向け、視力を損なってもなお黒点や紅炎などの活動を記録し続けた▼小学生の時、星空観察で魅了され、望遠鏡を自作。中学生になると自室の屋根に穴を開けて星に見入った。太陽観測を本格的に始めたのは18歳の春。農家の長男に生まれ、「百姓に学問はいらない」と進学はかなわなかったが、天文学同好会に入って志を燃やした▼目を痛めたため考案した投映式の望遠鏡で、板上の専用紙に映った黒点や白斑、吹き上がる紅炎を精密になぞり書く。1人で、手法を変えずに蓄積した観測記録としては世界最長に並ぶ。妻の昭子さんも「太陽と結婚したようなもの」と笑って研究の生涯に添った▼データは信頼性も精度も高く評価され、世界の太陽観測史約400年を支えている。でも一番の功績はその情熱を次代に示したことではないだろうか。心動かされた学芸員と諏訪清陵高校の生徒、遺族が膨大な記録をデジタル保存し、未完のグラフも後につなげた▼作業中、手書きデータからひたむきさが伝わってきたそうだ。藤森さんは長い観察を経て、「黒点の変化は地上の気象と関係がなかった」と言った。衆目はとかく新発見に向くが、変わりがないこともとても重要な手がかり。研究に回り道はないと教えてくれている。
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