2021年6月5日付

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一つの大きな出来事が起きたのではない、2万の悲しい出来事が起きたのだ―。東日本大震災の後、ラジオの出演者が話していたことである。移動中の車内だったが、深く感銘を受け、とっさにメモを取った記憶がある▼関連死を含め2万人を超える人が犠牲になった大災害である。その一人一人に家族があり、友人があり、人生があった。ひとくくりにはできないはずなのに、ともすると表面的な数字の多寡に目が奪われがちになる。自戒も込めて何年か前に小欄で取り上げたことがあった▼そんなことを思い起こしたのは、ある経済学者の発言。日本の新型コロナの感染状況を「さざ波」と表現して物議を醸した(のちに陳謝)。無論、数字に基づいた冷静な議論は必要だし、言葉尻のみを捉えて批判することには賛成できない。それでもこの発言は少々乱暴に感じた▼「さざ波」とされた人たちは感染に苦しみ、残念ながら死に至った人もいる。感染拡大で休業や時短営業を余儀なくされた飲食店や勤め先の業績悪化で雇い止めにあった人もいる。医療がひっ迫し、危機的な状況が続く地域もある。「さざ波」どころか嵐の中にいるような状況ではないか▼まだまだ収束が見えないコロナ禍である。日本の感染者数が諸外国と比べて少ないのはその通りかもしれないが、そうした数字に一喜一憂せず、一人一人に思いを寄せる姿勢を忘れないようにしたい。

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